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個人事業主が加入すべき社会保険を徹底解説|年金や健康保険を分かりやすく紹介

個人事業主として事業を始めると、社会保険の手続きや保険料の負担について、どう対応すべきか悩む場面が多いのではないでしょうか。ご自身の健康保険や年金はもちろん、従業員を雇う場合には、さらに複雑な手続きが必要になります。
「自分が入るべき保険は?」
「従業員の保険はどうすればいいの?」
「保険料を抑える方法はある?」
といった疑問も尽きません。
この記事では、個人事業主が加入する社会保険の種類や、従業員雇用時の注意点、保険料の目安、そして負担を軽減するためのポイントなどを具体的に解説します。正しい知識を身につけ、安心して事業運営を進めるためにお役立てください。
なお、フリーランス互助会では、起業支援や業務支援など、個人事業主向けのサポートを提供しています。個人事業主やフリーランスとして働く中で不安がある方は、ぜひフリーランス互助会にご相談ください。
そもそも社会保険とは
社会保険は、私たちの暮らしの中で起こり得る病気、ケガ、加齢、障害、失業、介護といったさまざまなリスクに備え、生活の安定を支えるための公的な保険制度です。国や地方自治体などが運営主体となり、加入者や事業主が保険料を負担し合うことで、必要な時に給付を受けられる仕組みになっています。
個人事業主として事業を営む場合、ご自身が加入する社会保険はもちろん、従業員を雇用する場合にはその従業員の社会保険についても理解し、適切に対応する必要があります。会社員とは加入制度や手続きが異なる部分が多いため、個人事業主としての社会保険の知識を身につけておくことが大切です。
以下の記事では、フリーランス向けに社会保険について詳しく解説しています。1人でビジネスを進めていきたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
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社会保険の種類
社会保険制度は、目的や対象に応じて主に5種類に分けられます。
- 健康保険
- 年金
- 介護保険
- 雇用保険
- 労働保険
個人事業主ご自身が加入するものと、従業員を雇った際に関係してくるものがありますので、それぞれの概要を把握しておきましょう。
健康保険
病気やケガをした際に、医療機関でかかる医療費の自己負担を軽減するための制度です。原則として医療費の3割(年齢や所得により変動あり)を負担すれば、必要な治療や診察、薬の処方などを受けられます。
個人事業主の方は、主にお住まいの市区町村が運営する「国民健康保険」に加入します。特定の業種の方は「国民健康保険組合」という選択肢もあります。
従業員を雇用し、一定の条件を満たす場合は、事業所として健康保険(協会けんぽや組合健保)への加入が必要です。
年金
主に老後の生活保障(老齢年金)を目的とした制度ですが、病気やケガで障害状態になった際の障害年金や、加入者が亡くなった場合に遺族へ支給される遺族年金といった機能も備えています。日本国内に住む20歳以上60歳未満の方は、基礎となる「国民年金」への加入が義務です。
個人事業主の方はこの国民年金(第1号被保険者)に加入します。従業員を雇用し、一定の条件を満たす場合は、事業所として厚生年金保険にも加入し、従業員を加入させる必要があります。
介護保険
40歳になると加入が義務付けられる保険で、加齢に伴って介護が必要になった場合に、介護サービスを受けるための費用の一部を給付する制度です。個人事業主の方も40歳以上であれば加入対象となり、保険料を納める必要があります。
保険料は、加入している健康保険料(国民健康保険料など)に上乗せして徴収されるのが一般的です。実際にサービスを利用できるのは、原則65歳以上で要介護・要支援認定を受けた方、または40歳~64歳で特定の疾病により認定を受けた方となります。
雇用保険
従業員が失業した場合の生活保障(基本手当)や再就職支援、育児・介護休業時の給付などを行う制度です。これは雇用されている労働者のための保険であるため、個人事業主ご本人は加入できません。
しかし、従業員を雇用する場合は、一定の条件(週の所定労働時間20時間以上など)を満たす従業員を雇用保険に加入させる義務が事業主に生じます。保険料は事業主と従業員の双方で負担しますが、事業主側の負担割合の方が大きくなっています。
労災保険
労災保険は、従業員が仕事中や通勤中にケガをしたり、病気になったり、あるいは亡くなったりした場合に、治療費や休業中の生活費などを補償する制度です。
個人事業主ご本人は原則対象外ですが、従業員を1人でも雇用した場合は、その従業員のために労災保険に加入する義務が事業主にあります。労災保険料は全額事業主負担です。
なお、個人事業主本人も、業種などによっては特別加入制度を利用して労災保険に加入できます。
一般的に個人事業主が加入できる健康保険は3種類
個人事業主ご本人が加入する健康保険には、主に以下の3つの選択肢が考えられます。
- 国民健康保険
- 国民健康保険組合
- 働いていた会社で加入していた健康保険の任意継続
ご自身の事業内容や所得、家族構成などを踏まえて比較検討しましょう。
国民健康保険
個人事業主の方が最も多く加入しているのが、お住まいの市区町村(または都道府県)が運営する国民健康保険(国保)です。会社の健康保険などに加入していない方が対象となります。
保険料は、前年の所得や世帯の加入者数、年齢(40歳以上は介護保険料も含む)などをもとに計算されます。計算方法や保険料率は自治体によって異なるため、加入手続きや保険料の詳細はお住まいの市区町村役場の窓口やWebサイトで確認しましょう。
国民健康保険組合
特定の業種(建設、土木、医師、薬剤師、税理士、食品販売、理容・美容、文芸・美術など)に従事する個人事業主とその家族、従業員が加入できる、同業者で組織された健康保険組合です。
国民健康保険組合(国保組合)の大きな特徴は、保険料が所得に関わらず定額であるケースが多い点です。そのため、所得水準によっては市区町村の国保よりも保険料負担を抑えられる可能性があります。
ただし、加入できる業種が決まっており、組合ごとに加入条件や保険料、給付内容(付加給付など)が異なります。ご自身の業種に該当する組合があるか確認してみましょう。
働いていた会社で加入していた健康保険の任意継続
会社員から独立して個人事業主になった場合、退職前の会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)を、退職後最長2年間、継続して利用できる「任意継続被保険者制度」があります。
この制度を利用するには、退職日の前日までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間があること、そして退職日の翌日から20日以内に手続きを完了させることが条件です。
保険料は、在職中は会社と折半でしたが、任意継続では全額自己負担となります。ただし、保険料には上限額が設定されています。扶養している家族が多い場合などは、国保よりも有利になることがあります。
個人事業主の加入が定められている社会保険
個人事業主として活動する上で、ご自身の加入が法律で義務付けられている社会保険があります。それは「国民年金」と、40歳以上の方の場合は「介護保険」です。
国民年金
日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人は、国民年金への加入が義務付けられています。個人事業主の方は「第1号被保険者」に該当し、ご自身で保険料を納付しなければなりません。
国民年金保険料は所得にかかわらず定額で、毎年見直しが行われます。2025年度(令和7年度)の保険料は月額17,510円です。
この保険料を納めることで、将来の老齢基礎年金だけでなく、万が一の際の障害基礎年金や遺族基礎年金の保障を受けることができます。収入減などで納付が困難な場合は、免除や納付猶予の制度がありますので、お住まいの市区町村や年金事務所に相談しましょう。
介護保険(40歳以上の個人事業主)
40歳になると、すべての国民は介護保険への加入が義務付けられます。これは個人事業主の方も例外ではありません。40歳から64歳までの方は「第2号被保険者」となり、介護保険料を納める必要があります。
個人事業主の場合、この介護保険料は加入している国民健康保険料などと一緒に徴収されるのが一般的です。つまり、国民健康保険に加入している場合は、国民健康保険料に介護保険料分が上乗せされた金額を納付することになります。
この保険料負担により、将来介護が必要になった際に、介護サービスを原則1~3割の自己負担で利用できるようになります。
個人事業主として従業員を雇う場合の社会保険
個人事業主であっても、従業員を雇い入れる場合には、事業主として社会保険(健康保険・厚生年金保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)への加入手続きが必要になることがあります。
常時1人以上を雇用する場合
従業員を一人でも雇い入れた場合、原則として労働保険(労災保険と雇用保険)の加入手続きを行う必要があります。労災保険は、パートやアルバイトを含め、すべての従業員が対象となり、保険料は全額事業主負担です。
雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員が対象となります。雇用保険料は、事業主と従業員の双方の負担です。これらの手続きは、事業所を管轄する労働基準監督署やハローワークで行います。
常時5人以上を雇用する場合
個人事業所の場合、農林漁業、サービス業(飲食店、理美容業など)、法務・宗教関係などの一部の業種を除き、常時5人以上の従業員を使用するようになると、健康保険および厚生年金保険の「強制適用事業所」となります。この場合、事業主は協会けんぽ(または健康保険組合)と厚生年金保険に加入し、対象となる従業員(正社員や、週の労働時間・日数が正社員の概ね4分の3以上のパート・アルバイトなど)を加入させる義務が生じます。
保険料は事業主と従業員で半分ずつ負担します。なお、法人の場合は、従業員数にかかわらず強制適用となります。
労働保険への加入
前述の通り、従業員を一人でも雇った時点で、事業主には労働保険(労災保険・雇用保険)の加入義務が発生します(雇用保険は従業員の労働条件による)。
労災保険は、業務上や通勤途中の事故から従業員を守るために非常に重要です。雇用保険は、従業員の失業時の生活安定や能力開発などを支援します。
これらの手続きを怠ると、遡って保険料を徴収されたり、罰則が科されたりする可能性もあります。従業員を雇用したら、速やかに労働基準監督署やハローワークで手続きを行いましょう。
個人事業主と会社員の社会保険の違い
まず、加入する制度が異なります。個人事業主本人は国民健康保険(または国保組合)と国民年金に加入しますが、会社員は勤務先の健康保険(協会けんぽや組合健保)と厚生年金に加入します。
険料の負担も大きく異なります。個人事業主は全額自己負担ですが、会社員は保険料を会社と折半します。従業員を雇う場合、個人事業主は一定の条件(常時5人以上雇用など)を満たさない限り、健康保険・厚生年金の加入義務はありませんが、法人の場合は原則として加入義務があります。
保障面では、厚生年金に加入する会社員の方が、国民年金のみの個人事業主よりも将来受け取る老齢年金額が多くなる傾向があります。
個人事業主が社会保険料を安くするポイント
全額自己負担となる社会保険料は、個人事業主にとって大きな負担です。負担を少しでも軽減するために、いくつかポイントがあります。
まず、ご自身の健康保険料については、市区町村の国民健康保険料と、加入資格があれば国民健康保険組合の保険料を比較検討しましょう。所得によっては国保組合の方が有利な場合があります。会社員から独立した場合は、任意継続の保険料とも比較が必要です。
また、国民年金保険料の納付が困難な場合は、免除・猶予制度の活用を検討しましょう。
さらに、将来の備えを充実させつつ節税効果も得られるiDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金への加入も有効です。これらの掛金は全額所得控除の対象となり、所得税・住民税の負担軽減につながります。
従業員を雇用する場合は、社会保険の適用条件などを正しく理解し、適切な手続きを行うことが重要です。
まとめ
今回は、ご自身が加入する国民健康保険や国民年金、そして40歳以上の方の介護保険について解説しました。また、従業員を雇用する際に必要となる労働保険や社会保険(健康保険・厚生年金)の手続きや条件についても触れました。
個人事業主にとって、社会保険はご自身の生活や事業活動を守る上で欠かせないセーフティネットです。会社員とは異なる点も多い社会保険ですが、制度を正しく理解し、必要な手続きを適切に行うことで、安心して事業に集中できる環境を整えましょう。
フリーランス互助会では、起業支援や業務支援など、個人事業主向けのサポートを提供しています。個人事業主として働くなかで、社会保障や仕事に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。